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不適切な対人的行為

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 本記事では、「前頭葉機能不全 その先の戦略 Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド」という書籍を紹介し、神経心理ピラミッドの活用法を提案しています。現場の看護師さんたちの高次脳機能障害の理解が進み、より良いケアに繋がることを願っています。 神経心理ピラミッドの詳細は次のリンクを参照ください。 https://nurse-dialogue-room.blogspot.com/2023/03/blog-post.html  前掲の文献では、高次脳機能障害を独自の症候で定義し、その関わり方の手引きを詳細に示しています。看護師の基礎教育ではあまり聞きなれない症候ですが、高次脳機能障害対象者と適切な関係を築き、良いケアを提供するためには欠かせない知識と言えます。  Rusk通院プログラムで使われる独自の症候を解説します。今回は「不適切な対人的行為」です。 定義:対人的(対社会的)判断力や行動の領域における器質性の欠損群 脳損傷に起因する患者の器質性認知・行動障害は、以下のような不適切な対人的行為の原因になります。 人を思いやる能力が不十分になります 社会的判断力が乏しくなります 反感を持たせるコミュニケーションや交流を取りやすくなります 機転が利かなくなり、社会的な意味での親愛感が不十分になります 立神粧子 「前頭葉機能不全 その先の戦略 Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド」P70-71を一部改編  不適切な対人的行為を神経心理ピラミッドで示すと、下から7番目「論理的思考力/遂行機能」に該当します。      不適切な対人的行為は、神経心理ピラミッドでは高次レベルに相当します。それ故日常生活において、障害が周囲の人に気づかれにくいという特徴があります。一時的で表面的な人間関係であれば、それでも生活は成り立つ場面があります。買い物をしたり、一人で移動したりするのであれば問題は顕在化しません。もし一人で完結する仕事なら、成り立つ場合もあり得ます。しかし、多くの場面では人は一人で生きることはできません。特に、仕事は良好な人間関係があって成り立つものです。不適切な対人的行為にある人は「おかしな人・性格が悪い・自分勝手・気が利かない」と評されます。そして孤立し、適切な支援・配慮をうけられず過ごします。その結果、不利益を被ることが予想されます。さらにこの人間関係の摩擦が本人

論理的思考力の低下

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 本記事では、「前頭葉機能不全 その先の戦略 Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド」という書籍を紹介し、神経心理ピラミッドの活用法を提案しています。現場の看護師さんたちの高次脳機能障害の理解が進み、より良いケアに繋がることを願っています。 神経心理ピラミッドの詳細は次のリンクを参照ください。 https://nurse-dialogue-room.blogspot.com/2023/03/blog-post.html  前掲の文献では、高次脳機能障害を独自の症候で定義し、その関わり方の手引きを詳細に示しています。看護師の基礎教育ではあまり聞きなれない症候ですが、高次脳機能障害対象者と適切な関係を築き、良いケアを提供するためには欠かせない知識と言えます。  Rusk通院プログラムで使われる独自の症候を解説します。今回は「論理的思考力の低下」です。 定義:論理的な思考力や、計画の立案、問題解決のための実行力、そして推論を導き、結果を評価することにおける欠損群 論理的な思考力の低下は、以下のように現れます。 「収束的思考力」が弱くなります。これは主要な考えに要約したり、周辺の二義的な考えから主な考えを区別したりが困難になることを意味します。 「拡散的思考力」の問題が表れます。拡散的思考力とは、 分析して問題解決をするときに異なった視点から問題を考えるなど、自分の視点を柔軟に変える 問題を解決するために論理的に異なる選択肢を考える その時の状況に最も適切なアプローチを選択する、などです。 「遂行機能」の欠損が表れます。問題を解決するための計画を秩序立てて、実践的に実行するのが困難となります。遂行機能とは、 ①考えや行い、そして取り巻くものを秩序付ける ②優先順位をつける ③ある特定の細かいところを練ってつくる ④誤りを正し適正に対処する ⑤その時の状況に応じて行動を変えるなど、自己モニターする              などです。 立神粧子 「前頭葉機能不全 その先の戦略 Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド」P69-70を一部改編    論理的思考力の低下を神経心理ピラミッドで示すと、下から7番目「論理的思考力/遂行機能」に該当します。       論理的思考力の低下は、それより低次な各欠損の集大成とも言えます。患者を取り巻く社会で、情報を

記憶能力の低下

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 本記事では、「前頭葉機能不全 その先の戦略 Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド」という書籍を紹介し、神経心理ピラミッドの活用法を提案しています。現場の看護師さんたちの高次脳機能障害の理解が進み、より良いケアに繋がることを願っています。 神経心理ピラミッドの詳細は次のリンクを参照ください。 https://nurse-dialogue-room.blogspot.com/2023/03/blog-post.html  前掲の文献では、高次脳機能障害を独自の症候で定義し、その関わり方の手引きを詳細に示しています。看護師の基礎教育ではあまり聞きなれない症候ですが、高次脳機能障害対象者と適切な関係を築き、良いケアを提供するためには欠かせない知識と言えます。  Rusk通院プログラムで使われる独自の症候を解説します。今回は「記憶能力の低下」です。 定義:①獲得する、すなわち習得する、②必要に応じて維持、増強する、③必要に応じて情報を自発的に思い出す、などの問題に関連した欠損群 記憶能力の低下は、以下のように現れます。 短い指示や説明でも、すぐに思い出すことが出来ません エピソード記憶の問題が表れます。少し前の概要ですら記憶できません 個人的に意味のある経験(重要性の高いこと)でも、維持して記憶できません 「無気づき症候群」と結びつくと、患者の記憶の欠損は「断続性症候群」に帰結します 「断続性症候群」とは、自分の行っていることの何が不具合か気づけない状態です 「断続性症候群」は他者から、思い出すための合図を貰うなどの介入を要します 立神粧子 「前頭葉機能不全 その先の戦略 Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド」P68-69を一部改編  「記憶能力の低下」の定義は、看護師や医療職が知っている一般的な「記憶障害」とほぼ同じです。ruskで紹介される症候の中では、腑落ちしやすいものだと思います。  記憶能力の低下を神経心理ピラミッドで示すと、下から6番目「記憶」に該当します。           神経心理ピラミッドでもわかるように、「記憶」は前頭葉機能の中ではかなり高次に位置します。臨床で関わる対象者を想定すると、「記憶はもっと基礎的なものである」と異論を唱える方もおられます。確かに看護師の顔を覚えていたり、ある程度の会話が成り立ったりすればその意見は理解できます。た

情報処理とコミュニケーション・スキルの能力低下

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 本記事では、「前頭葉機能不全 その先の戦略 Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド」という書籍を紹介し、神経心理ピラミッドの活用法を提案しています。現場の看護師さんたちの高次脳機能障害の理解が進み、より良いケアに繋がることを願っています。 神経心理ピラミッドの詳細は次のリンクを参照ください。 https://nurse-dialogue-room.blogspot.com/2023/03/blog-post.html  前掲の文献では、高次脳機能障害を独自の症候で定義し、その関わり方の手引きを詳細に示しています。看護師の基礎教育ではあまり聞きなれない症候ですが、高次脳機能障害対象者と適切な関係を築き、良いケアを提供するためには欠かせない知識と言えます。 Rusk通院プログラムで使われる独自の症候を解説します。今回は「情報処理とコミュニケーション・スキルの能力低下」です。 定義:情報処理の的確性の低下と、思いを言葉で伝える能力に関連した欠損群 情報処理とコミュニケーション・スキルの能力低下の問題は、以下のように典型的に現れます。 普通より大幅に情報処理に時間がかかります 言葉・動作・応答に大幅に時間がかかります タイムリーで、最もふさわしい方法の交流ができなくなります 不正確・断片的・曖昧で、不明瞭な言葉のコミュニケーションになります たとえ流暢で文法的でも、ねらいや焦点が定まらない言葉のコミュニケーションになります 立神粧子 「前頭葉機能不全 その先の戦略 Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド」P66-67を一部改編  情報処理とコミュニケーション・スキルの能力低下を神経心理ピラミッドで示すと、下から数えて5番目「コミュニケーションと情報処理」に該当します。さらに日常生活の様々な場面を想定すると一段上の「記憶」、そして二段上の「論理的思考力・遂行機能」も該当すると考えられます。つまり「情報処理とコミュニケーション・スキルの能力低下」は、神経心理ピラミッドの低次レベルから高次レベルにまたがった欠損と言えます。       「情報処理とコミュニケーション・スキルの能力低下」に該当する対象者は、一見コミュニケーションに大きな問題がないように思われます。それは表面的なやりとりであれば、成立してしまう場合があるからです。人間関係の距離が遠かったり、短い時間での関わ

基本的な注意力障害

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 本記事では、「前頭葉機能不全 その先の戦略 Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド」という書籍を紹介し、神経心理ピラミッドの活用法を提案しています。現場の看護師さんたちの高次脳機能障害の理解が進み、より良いケアに繋がることを願っています。 神経心理ピラミッドの詳細は次のリンクを参照ください。 https://nurse-dialogue-room.blogspot.com/2023/03/blog-post.html  前掲の文献では、高次脳機能障害を独自の症候で定義し、その関わり方の手引きを詳細に示しています。看護師の基礎教育ではあまり聞きなれない症候ですが、高次脳機能障害対象者と適切な関係を築き、良いケアを提供するためには欠かせない知識と言えます。 Rusk通院プログラムで使われる独自の症候を解説します。今回は「基本的な注意力障害」です。 定義:不十分な覚醒、注意態勢、厳戒態勢に関連した、あるいは選択的注意にフォーカスすることに関連した、または思いの連鎖を維持できないことに関連した欠損群 基本的な注意障害の欠損には、以下のような症状があります 目覚めている状態、あるいは覚醒のレベルが不十分になります。他者からは「怠惰」に見えます 注意を選択的にフォーカスすることが困難になります 一般的に求められる時間、集中力を維持することが困難になります 立神粧子 「前頭葉機能不全 その先の戦略 Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド」P65-66を一部改編  抑制困難症を神経心理ピラミッドで示すと、下から数えて4番目「注意力と集中力」に該当します。     「基本的な注意力障害」は、看護師が基礎教育や脳神経疾患看護教育で学ぶ「注意障害」の概念に極めて近いです。このため患者・対象者の姿も思い浮かべやすく、Rusk通院プログラムで使われる独自の症候のなかでは理解しやすいと思います。  基本的な注意力障害の対象者は、一つのことに注意を集中したり、多数のなかから注意して必要なことを選んだりすることが困難になります。気が散り疲れやすいため、一つのことを継続することが難しいです。また、一度に複数のことに対応し難いうえ、自分の周囲に気を配れず、安全に配慮できません。  こう考えると、まずは周囲の環境を整え注意が集中できるようにすること、次に対象者が自分自身の障害を認知できるように

抑制困難症

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 本記事では、「前頭葉機能不全 その先の戦略 Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド」という書籍を紹介し、神経心理ピラミッドの活用法を提案しています。現場の看護師さんたちの高次脳機能障害の理解が進み、より良いケアに繋がることを願っています。 神経心理ピラミッドの詳細は次のリンクを参照ください。 https://nurse-dialogue-room.blogspot.com/2023/03/blog-post.html  前掲の文献では、高次脳機能障害を独自の症候で定義し、その関わり方の手引きを詳細に示しています。看護師の基礎教育ではあまり聞きなれない症候ですが、高次脳機能障害対象者と適切な関係を築き、良いケアを提供するためには欠かせない知識と言えます。 Rusk通院プログラムで使われる独自の症候を解説します。今回は「抑制困難症」です。 定義:間違った方向のエネルギー、あるいは下手にコントロールされたエネルギーが「過度であること」に関連した欠損群 抑制困難症は、典型的には次のような症状があらわれます 衝動症:十分に考慮せず行動に突入してしまいます。慎重さが失われた状態です 反応の調整下手:行動や言葉で表すのに、「過度の」力を使ってしまいます。状況に合わせた調度よい表現ができません 多動症:じっとしていることが困難です。動いたりそわそわしたりする欲求がつよく、さらにそれが頻繁に起こります 「イライラ症」とフラストレーション耐性低下症:他人からの助けがなければ、小さなイライラをやり過ごすことができません 情報の「洪水」:認知の限度を超えると、自分に関わることでなくても感情がゆさぶられてしまいます。思考過程が情動に圧倒されます 感情の爆発または激怒症:イライラが募り、神経が張り詰めて挑発された時、激怒の反応によって爆発しやすくなります 立神粧子 「前頭葉機能不全 その先の戦略 Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド」P64-65を一部改編  抑制困難症を神経心理ピラミッドで示すと、下から数えて3番目「抑制(抑制困難症) 発動性(無気力症)」に該当します。    これらの症状はそれぞれが複雑に影響し合い、さらに症状を悪化させます。別の記事で紹介した「神経疲労」が大きく関係していると思われます。「神経疲労」の記事はリンクを参照ください。 https://nurse-d

無気力症

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 本記事では、「前頭葉機能不全 その先の戦略 Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド」という書籍を紹介し、神経心理ピラミッドの活用法を提案しています。現場の看護師さんたちの高次脳機能障害の理解が進み、より良いケアに繋がることを願っています。 神経心理ピラミッドの詳細は次のリンクを参照ください。 https://nurse-dialogue-room.blogspot.com/2023/03/blog-post.html  前掲の文献では、高次脳機能障害を独自の症候で定義し、その関わり方の手引きを詳細に示しています。看護師の基礎教育ではあまり聞きなれない症候ですが、高次脳機能障害対象者と適切な関係を築き、良いケアを提供するためには欠かせない知識と言えます。 Rusk通院プログラムで使われる独自の症候を解説します。今回は「無気力症」です。 定義:精神力、精神エネルギー、意思、発動性、自発性の欠如に関連した欠損群 無気力症は以下のような症状として現れます。 発動性の困難:思いを形づくって、それらを行動に起こすことが困難になります。意思や思考過程の「麻痺」ともいわれる所以です 発想法の欠如:想像する力や連想する力が弱まり、その結果アイデアが枯渇する傾向になります。さらには発想を拡大できなくなります 自発性の欠如:心の動きや活動性が欠如します。その場に合った適切な参加行動ができず、動作や言葉が右から左に抜けてしまうというイメージです。従って、行動を起こすためには他人からの適切な刺激や促しが必要になります。対象者は無表情になりやすいので、他人からは気持ちや感情が「ない」ように見えてしまいます 立神粧子 「前頭葉機能不全 その先の戦略 Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド」P63-64を一部改編  無気力症を神経心理ピラミッドで示すと、下から数えて3番目「抑制(抑制困難症) 発動性(無気力症)」に該当します。     無気力症のこれらの症状は互いに影響し合い、患者の存在価値を脅かす大きな原因になります。無気力症の人は、自分から何かを行動したり発言したりすることが困難になります。うつや失語症と疑われることもあり、その鑑別も重要です。家族をはじめ、周囲の人からは「怠けている・やる気がない」と捉えられやすく、社会で孤立する原因ともなり得ます。周囲からの声掛けや介入にも反応が薄

神経疲労

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 本記事では、「前頭葉機能不全 その先の戦略 Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド」という書籍を紹介し、神経心理ピラミッドの活用法を提案しています。現場の看護師さんたちの高次脳機能障害の理解が進み、より良いケアに繋がることを願っています。 神経心理ピラミッドの詳細は次のリンクを参照ください。 https://nurse-dialogue-room.blogspot.com/2023/03/blog-post.html  前掲の文献では、高次脳機能障害を独自の症候で定義し、その関わり方の手引きを詳細に示しています。看護師の基礎教育ではあまり聞きなれない症候ですが、高次脳機能障害対象者と適切な関係を築き、良いケアを提供するためには欠かせない知識と言えます。 Rusk通院プログラムで使われる独自の症候を解説します。今回は「神経疲労」です。 【神経疲労】 定義:精神的・心的エネルギーがなくなりがちな傾向 前頭葉機能に関連した脳細胞が損傷したため、以前より少ない数の脳細胞で日常生活のすべてを行わなければならなくなります 神経が非常に疲れやすくなり、疲労回復にも余計に時間がかかります 肉体疲労と決定的に異なり、休息しても脳損傷前の状態までには回復しません 神経疲労は自覚がなくても起こります 行動や思考にとっての土台となる基礎的な脳の働きが欠損します 基礎的な脳の働きとは、覚醒、警戒態勢・俊敏性、心的エネルギーです 基礎的な脳の働きより上の階層、すべての機能に大きな影響が出ます 立神粧子 「前頭葉機能不全 その先の戦略 Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド」P62-63 を一部改編  神経疲労を神経心理ピラミッドで示すと、基礎レベルと考えられます。下から数えて2番目「神経疲労 覚醒・警戒態勢・心的エネルギー」に該当します。    神経疲労に対する介入は、「神経疲労に対する認識を持つこと」と、「神経疲労を予防すること」と言われ、その練習を重ねることが望まれます。神経疲労がどうにもならない状態になる前に、自身で対処できる方法を身に着けることは不可能ではありません。その結果、より高次の認知機能を身に着ける練習に進むことが出来ます。    高次脳機能障害・認知機能低下対象者の対応がうまくいっていないときには、いきなり上部分をするよう強要している可能性があります。問題行動を助長

無気づき症候群

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 本記事では、「前頭葉機能不全 その先の戦略 Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド」という書籍を紹介し、神経心理ピラミッドの活用法を提案しています。現場の看護師さんたちの高次脳機能障害の理解が進み、より良いケアに繋がることを願っています。 神経心理ピラミッドの詳細は次のリンクを参照ください。 https://nurse-dialogue-room.blogspot.com/2023/03/blog-post.html  前掲の文献では、高次脳機能障害を独自の症候で定義し、その関わり方の手引きを詳細に示しています。看護師の基礎教育ではあまり聞きなれない症候ですが、高次脳機能障害対象者と適切な関係を築き、良いケアを提供するためには欠かせない知識と言えます。 Rusk通院プログラムで使われる独自の症候を解説します。今回は「無気づき症候群」です。 【無気づき症候群】 定義:自分に欠損があることに気づくことができない、という独特の欠損群 「無気づき症候群」は(主に)前頭葉の神経細胞が損傷した結果起こる、器質性の障害です。 自分の行為を「完全に」かつ「正確に」観察することが難しくなり、さまざまな事柄が脳損傷によっていかに変わってしまったかを「わかる」ことが難しくなります。 それまで持っていた「第3者の目」が機能しなくなり、自分自身で気づいていたことがわからなくなり、ピント外れになります。 立神粧子 「前頭葉機能不全 その先の戦略 Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド」P61-62 を一部改編  無気づき症候群を神経心理ピラミッドで示すと、基礎レベルと考えられます。おそらく、最下層の「神経心理学的リハビリテーションに取り組む意欲」に該当すると思われます。無気づき症候群は「神経疲労」から「情報処理の問題」まで、脳損傷が引き起こした神経心理学上の基本的な問題と位置付けられています。    高次脳機能障害・認知機能低下対象者の対応がうまくいっていないときには、いきなり上部分をするよう強要している可能性があります。問題行動を助長しているのは、私たち看護師かもしれないと考えてみてください。  高次脳機能障害対象者を適切に理解するためには、一つ一つの症候を知り、神経心理ピラミッドでどの階層に位置しているのかを見極めることが必要です。そして私たちが出来ることは、神経心理ピラミッドが

高次脳機能障害の理解

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   医療・介護・福祉に従事する方は、「高次脳機能障害」を一度は耳にされたことがあるのではないかと思います。ただ、あらためて「高次脳機能障害を説明してください」と言われた時、答えに困る場面はないでしょうか。  尚、本記事では認知機能低下と高次脳機能障害をほぼ同じ意味で使います。ご承知ください。この高次脳機能障害には定義があります。そのうち、よく知られたものを一つ紹介します。 【高次脳機能障害】 高次脳機能(認知)とは、知覚・記憶・学習・思考・判断などの認知過程と行為の感情(情動)を含めた精神(心理)機能を総称する。 病気(脳血管障害・脳症・脳炎など)や事故(脳外傷)によって脳が損傷されたために、認知機能に障害が起きた状態を高次脳機能障害という。 リハビリテーション心理職会HP より転載 2021.5.29    簡潔に良くまとめられている定義ですが、漢字ばかりで少しだけ難しく感じます。確かに、看護学生さんや現場の看護師さんからは、「高次脳機能障害よくわからない・難しい」と聞きます。  高次脳機能障害を嫌いになってもらっては困るので、私はこう説明しています。      障害は、説明の必要はないですね。脳機能は文字通り、脳の働きです。 つぎの「高次」を、みなさん敬遠されるようです。高次とはなにか。何が高いのか。それは、運動・感覚・呼吸など人間が生きるための機能を(低次)と仮定した場合、より高次という意味になります。これには、話す・聞く・考える・判断する、などがあります。  つまり、『直接、ヒトの生・死には直接は関係しないが、人間らしい生活のためには欠かせない脳機能の障害のこと』を言います。    高次脳機能障害には大変多彩な症状があります。有名なものでは、半側空間失認・失認・失行・失語・記憶障害・注意障害・社会的行動障害などがあります。テキストなどでよく目にするものをあげただけでもこれくらいあり、さらに細かい分類をいえばすぐに紙幅が足りなくなります。  このため、高次脳機能障害の各症状・原因などの説明は他の機会にお譲りさせて頂きます。もちろん、一つ一つの高次脳機能障害を知っておくに越したことはありません。それは治療者としてのhow-toを知るという意味で重要です。医療者は、一時的に結果の出やすいhow-toを学ぶ機会に恵まれています。ただhow-toを効果的に生かすため

神経心理ピラミッド

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  高次脳機能障害の患者さん・対象者さんと会話していて、すれ違いを感じたことはありませんか。理解しようと努力しているのに、距離が縮まらない、結果的にケアが上手くいかないという経験がある方は多いのではないかと思います。  高次脳機能障害を含む、認知機能低下を理解するために「神経心理ピラミッド」をご紹介します。「前頭葉機能不全 その先の戦略 Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド」という書籍に登場します。脳卒中・リハビリ領域の学会・論文などでしばしば扱われているので、目にされた方もあると思います。 以下にお示ししたものが、本家本元です。  このピラミッドが伝えようとしているのは、認知機能の働き方には順番があるということです。つまり、下の階層にある機能は認知の働きの基礎であり、その上にあるすべての機能に影響を及ぼしていると考えます。ピラミッドの下が満たされてはじめて上の階層が充足されます。  下から順に、目が覚めて、精神的エネルギーが保たれ、外界に興味が向き、集中でき、理解と表出ができてコミュニケーションが取れるようになります。そしてやっと、記憶ができるのです。そのうえで物事が順序立ててできるようになり、ようやく自己認識に至ります。  高次脳機能障害を理解し、ケアに繋げるために大変有意義な理論であると私は考えます。ただ、本日初めて目にされた方は理解が難しい部分もあると思います。  このため少しだけアレンジさせていただきました。これであらためて説明していきます。基礎が理解できた方は、ぜひ原著を確認くださることをお勧めします。                 このピラミッドが伝えようとしているのは、認知機能の働き方には順番があるということです。つまり、下の階層にある機能は認知の働きの基礎であり、その上にあるすべての機能に影響を及ぼしていると考えます。ピラミッドの下が満たされてはじめて上の階層が充足されます。  下から順に、目が覚めて、精神的エネルギーが保たれ、外界に興味が向き、集中でき、理解と表出ができてコミュニケーションが取れるようになります。そしてやっと、記憶ができるのです。そのうえで物事が順序立ててできるようになり、ようやく自己認識に至ります。  私たち人間同士、今の私たちのように普通にやりとりができる状態は、とても高い次元で脳が機能していること、わかっていただける