無気力症
本記事では、「前頭葉機能不全 その先の戦略 Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド」という書籍を紹介し、神経心理ピラミッドの活用法を提案しています。現場の看護師さんたちの高次脳機能障害の理解が進み、より良いケアに繋がることを願っています。
神経心理ピラミッドの詳細は次のリンクを参照ください。
https://nurse-dialogue-room.blogspot.com/2023/03/blog-post.html
前掲の文献では、高次脳機能障害を独自の症候で定義し、その関わり方の手引きを詳細に示しています。看護師の基礎教育ではあまり聞きなれない症候ですが、高次脳機能障害対象者と適切な関係を築き、良いケアを提供するためには欠かせない知識と言えます。
Rusk通院プログラムで使われる独自の症候を解説します。今回は「無気力症」です。
定義:精神力、精神エネルギー、意思、発動性、自発性の欠如に関連した欠損群
無気力症は以下のような症状として現れます。
- 発動性の困難:思いを形づくって、それらを行動に起こすことが困難になります。意思や思考過程の「麻痺」ともいわれる所以です
- 発想法の欠如:想像する力や連想する力が弱まり、その結果アイデアが枯渇する傾向になります。さらには発想を拡大できなくなります
- 自発性の欠如:心の動きや活動性が欠如します。その場に合った適切な参加行動ができず、動作や言葉が右から左に抜けてしまうというイメージです。従って、行動を起こすためには他人からの適切な刺激や促しが必要になります。対象者は無表情になりやすいので、他人からは気持ちや感情が「ない」ように見えてしまいます
立神粧子 「前頭葉機能不全 その先の戦略 Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド」P63-64を一部改編
無気力症のこれらの症状は互いに影響し合い、患者の存在価値を脅かす大きな原因になります。無気力症の人は、自分から何かを行動したり発言したりすることが困難になります。うつや失語症と疑われることもあり、その鑑別も重要です。家族をはじめ、周囲の人からは「怠けている・やる気がない」と捉えられやすく、社会で孤立する原因ともなり得ます。周囲からの声掛けや介入にも反応が薄く、支援者は無力感を覚えやすいと言えます。無気力症に限りませんが、支援者に対する適切な支援が求められます。
無気力症に対する介入は、チェックリストなどを活用して日常生活を仕組み化し、自立して行動できるように少しずつ習慣化していくことです。
高次脳機能障害・認知機能低下対象者の対応がうまくいっていないときには、いきなり上部分をするよう強要している可能性があります。問題行動を助長しているのは、私たち看護師かもしれないと考えてみてください。
高次脳機能障害対象者を適切に理解するためには、一つ一つの症候を知り、神経心理ピラミッドでどの階層に位置しているのかを見極めることが必要です。そして私たちが出来ることは、神経心理ピラミッドが底辺から徐々に満たされていくよう対象者にかかわることです。
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