情報処理とコミュニケーション・スキルの能力低下
本記事では、「前頭葉機能不全 その先の戦略 Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド」という書籍を紹介し、神経心理ピラミッドの活用法を提案しています。現場の看護師さんたちの高次脳機能障害の理解が進み、より良いケアに繋がることを願っています。
神経心理ピラミッドの詳細は次のリンクを参照ください。
https://nurse-dialogue-room.blogspot.com/2023/03/blog-post.html
前掲の文献では、高次脳機能障害を独自の症候で定義し、その関わり方の手引きを詳細に示しています。看護師の基礎教育ではあまり聞きなれない症候ですが、高次脳機能障害対象者と適切な関係を築き、良いケアを提供するためには欠かせない知識と言えます。
Rusk通院プログラムで使われる独自の症候を解説します。今回は「情報処理とコミュニケーション・スキルの能力低下」です。
定義:情報処理の的確性の低下と、思いを言葉で伝える能力に関連した欠損群
情報処理とコミュニケーション・スキルの能力低下の問題は、以下のように典型的に現れます。
- 普通より大幅に情報処理に時間がかかります
- 言葉・動作・応答に大幅に時間がかかります
- タイムリーで、最もふさわしい方法の交流ができなくなります
- 不正確・断片的・曖昧で、不明瞭な言葉のコミュニケーションになります
- たとえ流暢で文法的でも、ねらいや焦点が定まらない言葉のコミュニケーションになります
情報処理とコミュニケーション・スキルの能力低下を神経心理ピラミッドで示すと、下から数えて5番目「コミュニケーションと情報処理」に該当します。さらに日常生活の様々な場面を想定すると一段上の「記憶」、そして二段上の「論理的思考力・遂行機能」も該当すると考えられます。つまり「情報処理とコミュニケーション・スキルの能力低下」は、神経心理ピラミッドの低次レベルから高次レベルにまたがった欠損と言えます。
「情報処理とコミュニケーション・スキルの能力低下」に該当する対象者は、一見コミュニケーションに大きな問題がないように思われます。それは表面的なやりとりであれば、成立してしまう場合があるからです。人間関係の距離が遠かったり、短い時間での関わりだったりすれば一層気づかれにくくなります。ただ、実際は予想以上に情報処理の問題が起こっていることは多いです。すこしでも高度な課題に直面すれば、たちまちその症状は顕在化します。高度な課題の代表は、仕事です。他者との仕事が成立するには相当なコミュニケーション・スキルが求められます。また他者との対話も当てはまります。YES/NOや、良い/悪い程度のやりとりであれば成立していた関係も、対話となればその難易度は格段に上がります。相手が何を言おうとしているのかを理解し、自分の意見を言葉で伝えることが高度な能力であることは理解いただけると思います。言葉の裏側にある意味、表情の変化・沈黙や間の取り方・比喩・目の動き・息づかい・声の大きさ・トーンなど、コミュニケーション・スキルに求められる項目は書ききれないほどあります。
能力低下に周囲が気づき、受信・発信情報の確実な理解と確認ができるよう支援することが戦略になります。社会的に対象者が自立し尊重され続けるためにも、情報処理とコミュニケーション・スキルをトレーニングする機会を逸しないよう、慎重な配慮が求められます。
高次脳機能障害・認知機能低下対象者の対応がうまくいっていないときには、いきなり上部分をするよう強要している可能性があります。問題行動を助長しているのは、私たち看護師かもしれないと考えてみてください。
高次脳機能障害対象者を適切に理解するためには、一つ一つの症候を知り、神経心理ピラミッドでどの階層に位置しているのかを見極めることが必要です。そして私たちが出来ることは、神経心理ピラミッドが底辺から徐々に満たされていくよう対象者にかかわることです。
Rusk通院プログラムで使われる、独自の症候を解説しました。高次脳機能障害の症状・原因とともに、「神経心理ピラミッド」に関心を寄せて下されば嬉しいです。
コメント
コメントを投稿