記憶能力の低下
本記事では、「前頭葉機能不全 その先の戦略 Rusk通院プログラムと神経心理ピラミッド」という書籍を紹介し、神経心理ピラミッドの活用法を提案しています。現場の看護師さんたちの高次脳機能障害の理解が進み、より良いケアに繋がることを願っています。
神経心理ピラミッドの詳細は次のリンクを参照ください。
https://nurse-dialogue-room.blogspot.com/2023/03/blog-post.html
前掲の文献では、高次脳機能障害を独自の症候で定義し、その関わり方の手引きを詳細に示しています。看護師の基礎教育ではあまり聞きなれない症候ですが、高次脳機能障害対象者と適切な関係を築き、良いケアを提供するためには欠かせない知識と言えます。
Rusk通院プログラムで使われる独自の症候を解説します。今回は「記憶能力の低下」です。
定義:①獲得する、すなわち習得する、②必要に応じて維持、増強する、③必要に応じて情報を自発的に思い出す、などの問題に関連した欠損群
- 短い指示や説明でも、すぐに思い出すことが出来ません
- エピソード記憶の問題が表れます。少し前の概要ですら記憶できません
- 個人的に意味のある経験(重要性の高いこと)でも、維持して記憶できません
- 「無気づき症候群」と結びつくと、患者の記憶の欠損は「断続性症候群」に帰結します
- 「断続性症候群」とは、自分の行っていることの何が不具合か気づけない状態です
- 「断続性症候群」は他者から、思い出すための合図を貰うなどの介入を要します
「記憶能力の低下」の定義は、看護師や医療職が知っている一般的な「記憶障害」とほぼ同じです。ruskで紹介される症候の中では、腑落ちしやすいものだと思います。
記憶能力の低下を神経心理ピラミッドで示すと、下から6番目「記憶」に該当します。
神経心理ピラミッドでもわかるように、「記憶」は前頭葉機能の中ではかなり高次に位置します。臨床で関わる対象者を想定すると、「記憶はもっと基礎的なものである」と異論を唱える方もおられます。確かに看護師の顔を覚えていたり、ある程度の会話が成り立ったりすればその意見は理解できます。ただ、思い出したいのは「看護師と同じような記憶ができているわけではない」ことです。コミュニケーションが一部分成立すると、多くの方は「記憶が出来ている」と認識します。この結果、高次脳機能障害に適切に配慮できないまま対象者に介入します。これにより対象者の脳に過大な負担をかけ、神経心理ピラミッドの下層が揺らぎ、現在の脳機能が発揮できなくなるのです。この場合、記憶できない人に「記憶せよ」と命令しているに等しいです。
高次脳機能障害・認知機能低下対象者の対応がうまくいっていないときには、いきなり上部分をするよう強要している可能性があります。問題行動を助長しているのは、私たち看護師かもしれないと考えてみてください。
高次脳機能障害対象者を適切に理解するためには、一つ一つの症候を知り、神経心理ピラミッドでどの階層に位置しているのかを見極めることが必要です。そして私たちが出来ることは、神経心理ピラミッドが底辺から徐々に満たされていくよう対象者にかかわることです。
Rusk通院プログラムで使われる、独自の症候を解説しました。高次脳機能障害の症状・原因とともに、「神経心理ピラミッド」に関心を寄せて下されば嬉しいです。
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